
医療機関では、専門性の高い業務や、長年の経験によって培われた知識・判断力が必要となる仕事が数多く存在します。そのため、「この業務は○○さんに任せておけば安心」「経験豊富なスタッフが対応した方が早い」という状態が自然に生まれることがあります。
もちろん、経験豊かな職員が中心となって業務を支えることは、医療機関にとって大きな強みです。しかし、その一方で、特定の職員だけが業務内容や対応方法を把握している状態、いわゆる「業務の属人化」が進むと、組織運営上の大きなリスクにつながります。
例えば、以下のような状況は、多くの医療機関で見られます。
- ベテラン事務スタッフしか把握していない診療報酬請求や算定業務
- 特定の看護師に集中している院内委員会や係業務
- 管理者しか対応方法を知らない職員相談や勤務調整
- 担当者が休むと処理できなくなる各種手続きや事務作業
このような状態では、その職員が退職したり、休職したりした場合に、業務の引き継ぎが十分にできず、現場が混乱する可能性があります。また、特定の職員に負担が集中することで、疲労やストレスが蓄積し、離職やメンタル不調につながるリスクも高まります。
医療機関において安定した診療体制を維持するためには、「優秀な個人に頼る組織」から「チームで支えられる組織」へ変化していくことが重要です。
業務整理は「見える化」から始める
業務の属人化を防ぐために、最初に取り組むべきことは、現在行われている業務を整理し、「見える化」することです。
いきなり詳細なマニュアルを作成しようとすると、作成担当者の負担が大きくなり、途中で止まってしまうケースも少なくありません。
まずは、各部署・各職種でどのような業務が行われているのかを把握することから始めることが大切です。
具体的には、次のような項目を整理します。
- どの職員が担当している業務なのか
- どの程度の頻度で発生する業務なのか
- 1回あたりに必要な時間はどれくらいか
- 特定の職員しか対応できない業務なのか
- 手順を整理すれば他の職員でも対応可能なのか
業務を一覧化することで、「実は一部の職員に業務が集中していた」「以前から続けているが、現在の運用では必要性が低い作業がある」といった課題が見えてきます。
また、業務を整理する際には、「専門的な判断が必要な業務」と「手順を標準化できる業務」を分けて考えることも重要です。
例えば、医師や看護師など専門資格を持つ職員にしかできない業務は、無理に他職種へ移すことはできません。一方で、書類管理、定型的な入力作業、受付対応など、ルール化によって分担可能な業務も多くあります。
業務の性質を整理することで、本当に必要な人員配置や役割分担を検討しやすくなります。
マニュアルは「完璧」より「使いやすさ」が重要
業務整理の次のステップとして、マニュアルや手順書の作成があります。
しかし、最初から何十ページにも及ぶ詳細なマニュアルを作成する必要はありません。重要なのは、現場で実際に使える形にすることです。
例えば、以下のような形式から始めることがおすすめです。
- 業務チェックリスト
- 簡単な手順書
- 業務フロー図
- よくある問い合わせへの対応例
- 新人向けの確認ポイント一覧
医療機関の業務では、文章だけでは理解しづらい作業も多くあります。そのため、電子カルテ画面の操作手順や写真、具体的な事例などを取り入れることで、新しく入った職員でも理解しやすい資料になります。
マニュアル作成の目的は、「分厚い資料を作ること」ではありません。
本来の目的は、新人や異動者であっても、一定水準の業務を安定して行える状態をつくることです。
また、マニュアルは一度作成したら終わりではありません。診療報酬改定やシステム変更、業務内容の変化によって、内容は定期的に見直す必要があります。
更新担当者を決めたり、年1回程度の確認時期を設定したりすることで、作ったまま使われない資料になることを防ぐことができます。
業務の標準化がもたらすメリット
業務を整理し、標準化することで、医療機関にはさまざまなメリットがあります。
第一に、担当者が変わっても一定の品質を維持できることです。
医療機関では、患者対応や診療報酬請求など、正確性が求められる業務が多くあります。担当者によって対応方法が異なる状態を減らすことで、医療サービスの安定につながります。
第二に、新人教育や引き継ぎの負担軽減です。
これまでは「先輩について覚える」「見ながら覚える」という教育方法になりがちでした。しかし、基本的な業務手順が整理されていれば、教育担当者の負担を減らしながら効率的な育成が可能になります。
さらに、業務の偏りを解消することで、職員が休暇を取得しやすい環境づくりにもつながります。
特定の人しか対応できない業務が多い職場では、有給休暇や産休・育休の取得時にも周囲への負担が大きくなりがちです。誰もが一定範囲の業務を理解できる体制は、働きやすい職場づくりの基盤になります。
社会保険労務士法人サムライズがサポートできること
業務の属人化を解消するためには、単にマニュアルを作成するだけでは十分ではありません。
重要なのは、現在の業務量や職員配置、役割分担を確認し、「誰が、どの業務を、どのように担うのが適切なのか」を整理することです。
社会保険労務士法人サムライズでは、医療機関の実情に合わせて、
- 職員へのヒアリングによる業務内容の整理
- 職種別の業務フロー作成
- 役割分担や職務内容の整理
- 人事制度と連動した役割設定
- 働き方や業務負担の見直し
など、組織づくりをサポートしています。
「この人がいないと業務が回らない」という状態は、裏を返せば、その職員が大きな責任と負担を抱えている状態でもあります。
業務を仕組みとして整理し、チーム全体で支えられる体制をつくることは、職員の働きやすさを高めるだけでなく、患者さんへ安定した医療を提供するための重要な基盤となります。
業務の属人化に気づいた時こそ、現在の仕事の進め方を見直し、将来に向けた仕組みづくりを始めるタイミングです。
